バリュー チェーン モデリングがビジネスに与えるメリット

By Kate Eby | 2018年6月18日 (更新 2023年6月22日)

競争上の優位性を求める企業は、生産サイクルにおけるコスト削減と差別化の機会を特定するためにバリュー チェーン モデルを使用する傾向があります。バリュー チェーンの理想は、市場が負担できるコストより製造コストがはるかに低いことですが、顧客の需要がいっそう複雑化し、市場競争が激化するにつれて、これはどんどん難しくなっています。また、マイケル・ポーター (Michael Porter) 氏が 1985 年にバリュー チェーン モデルを提唱して以来、テクノロジーやコミュニケーション方法は大きく変化しています。しかし、進歩や革新があったとはいえ、バリュー チェーン分析は依然として、市場機会の特定と競争上の差別化のための健全なモデルです。

この記事では、経済情勢の変化に応じて、バリュー チェーンを継続的に再評価、再構築、再モデリングする必要がある理由について説明します。ただし、一度確立された効率的なバリュー チェーンは、大きな成功につながります。

 

バリュー チェーン分析とは?

バリュー チェーンは、製品がコンセプトから市場に出るまでのプロセスを合理化します。バリュー チェーンは直接部門、間接部門、支援部門の間の構造と効果的なコミュニケーションによって支えられています。人材の雇用や育成といった直接的な活動は、記録の保持や品質管理といった適切な間接的な活動によってさらにサポートされます。

経済学者のマイケル・ポーター (Michael Porter) 氏はバリュー チェーン モデルの有効性を分析した際、改善すべき領域を特定するためのコスト ドライバーとして、以下の 10 項目を紹介しました。

  1. 規模の経済性: 真のニーズを知るには、地域、国、世界を問わず、需要の規模に応じたコスト分析が必要です。
  2. 学習: スケジュール設定、資産の使用、オフィスや倉庫のレイアウトなど、効率化や改善のために環境を変える活動です。
  3. 操業度: 過少操業または過剰操業にならないよう、生産能力を効率的な水準に維持するための手順です。
  4. 活動間の連携: 調整や最適化を通じて、部門の枠を変えて改善すべき領域を特定します。
  5. 事業部門間の連携: 情報とリソースを共有する機会を設けます。
  6. 垂直統合の度合い: 共同で連携すべき領域がどこか、場合によっては連携すべきでない領域がどこかを特定します。
  7. 市場参入のタイミング: 経済情勢、世界情勢、市場における競争上の地位に応じて市場参入のタイミングを計ります。
  8. コストまたは差別化に関する会社の方針: プロセスに盛り込まれている価値観を確認します。
  9. 地理的な条件: 賃金、気候、原材料などが含まれます。
  10. 制度的要因: 税金、労働組合、規制などが含まれます。

ポーター (Porter) のバリュー チェーンと収益モデルの変遷

収益モデルは、バリュー チェーン モデリングよりも長い歴史を持っています。1758 年にフランソワ・ケネー (Francois Quesnay) 著の『Tableau Economique (邦題: 経済表)』で初めてこのテーマが言及されました。20 世紀半ばになると、ワシリー・レオンチェフ (Wassily Leontief) 氏が産業連関表を使用して産業間の相互関連性を概説します。そして 1985 年にマイケル・ポーター (Michael Porter) 氏はレオンチェフ (Leontief) 氏の産業連関表を発展させ、主活動と支援活動との間のつながりを明確化するというバリュー チェーンの概念を発表しました。

ポーター (Porter) のバリュー チェーンは、原材料の入手やアイデアから、生産、そして最終的に顧客の手元に届くまでの相互に依存し合う活動を追う分析構造を構築するためのフレームワークです。このモデルは 30 年前と変わらず、今日でも有用です。それは、どの業界の企業も、製品開発に貢献する個々の活動の間にある協調関係や連携を識別できるからです。

バリュー チェーンに関する議論はどうしてもプロセスの仕組みやフレームワークに焦点が当たりがちですが、分析によって得られる情報は多くあります。バリュー チェーン分析により、真の市場機会を特定できます。マイケル・ポーター (Michael Porter) 氏は、1998 年の著書『Competitive Advantage of Nations (邦題: 国の競争優位)』の中で「企業は新しい活動方法を編み出し、新しい手順、新しい技術、あるいはさまざまなインプットを取り入れながら競争の優位を獲得する。」と結論付けています。 

同氏のバリュー チェーンは、購買物流、製造、出荷物流、マーケティングと販売、サービスという 5 つの主要な活動で構成されます。支援活動は、すべての主要な活動の上に縦列で描かれています。そして支援活動は、調達、人材管理、技術開発、企業インフラで構成されます。

 

Value Chain

一般的なバリュー チェーン モデルでは、どの活動も同じ重みで視覚的に表現します。しかしバリュー チェーン分析では、会社の真のニーズが強調されます。たとえば、コピー機やエアコンのようにアフター サービスを提供する企業は、FedEx (フェデックス) や UPS (ユーピーエス) のようにフォローアップをほとんど行わない企業に比べて、サービス活動の比重が大きくなります。

ポーター (Porter) のバリュー チェーンを使用して、差別化を図るにせよ、コストダウンを図るにせよ、分析過程で変化に優先順位を付け、その変化が組織全体にどのようなメリットを生むのかを検討する必要があります。

 

競争優位に影響を与えるポーター (Porter) のファイブ フォース

ポーター (Porter) 氏は、バリュー チェーン モデルに関する説明の前に「ポーターのファイブ フォース」と呼ばれる独自の競争分析ツールを開発しました。このツールは機会やリスクを特定するために市場の競争力を批判的に見るもので、SWOT (強み、弱み、機会、脅威) 分析によく似ています。  このツールは状況の変化を分析して、積極的な改善のための構造を提供します。

ファイブ フォースは、以下の 5 つの要素で構成されています。

  1. 業界内の競合状況
  2. 新規参入の脅威
  3. 買い手の交渉力
  4. 売り手の交渉力
  5. 代替品の脅威

改善の例としては、技術革新やコスト抑制の機会、サプライヤーとの独占契約、配送しやすくするための地理的位置の改善、独自の原材料や製造プロセスの使用などが挙げられます。この分析では、単に競合他社を特定するのではなく、競合他社の活動、関係、市場浸透のしやすさが組織にどのような圧力をかけているかに着目します。これにより、組織は市場における真のポジションを評価し、課題を減らせるほか、競合に追いつき、競合を再定義し、競合を追い越す方法が見えてきます。

 

バリュー チェーン モデリングのメリット

バリュー チェーン モデリングにはメリットがたくさんあります。ポーター (Porter) 氏は『Competitive Advantage: Creating and Sustaining Superior Performance (邦題: 競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか)』の中で「競争上の優位性は、価値システム全体を構成し管理する新しい方法を見つけることから生まれる」と述べています。

同氏の一般的なバリュー チェーン モデルは広範で完全なものですが、絶対的なものではありません。むしろ、各組織の固有のニーズに適応できます。このモデルは出発点と考え、市場の発展、競争の激化、技術の導入、顧客の需要の変化を分析し、それに応じて調整する必要があるものと捉えましょう。たとえば、コスト削減や専門知識を活用するうえで社内とアウトソーシングのどちらでやった方がよいかを、バリュー チェーンを使用して見極めることができます。

バリュー チェーン モデリングには、最終的に以下のメリットがあります。

  • コスト削減
  • 競争上の差別化
  • 収益性の向上とビジネスの成功
  • 効率の向上
  • 廃棄物の削減
  • 製品の品質向上とコストダウン

M&A Solutions Ltd. (エムアンドエー ソリューションズ) の常務取締役である Anna Knezevic 氏は「バリュー チェーン分析を使用して、クライアント プロバイダーを特定し、請負業者の収益に反映させています。この分析でボトルネックを特定し、すぐに改善できるようになりました。」と語っています。

 

Value Chain Analysis

「M&A Solutions (エムアンドエー ソリューションズ) では、バリュー チェーン分析を使用して、クライアント プロバイダーを特定し、請負業者の収益に反映させています。どこかの業者がクライアントごとに『x』の価値を付加していても、請負業者から生み出される価値が『x』よりも低いことがわかったら、問題を見つけるために深く掘り下げて調査できます。」- Anna Knezevic 氏、M&A Solutions Ltd. (エムアンドエー ソリューションズ)

 

ポーター (Porter) のバリュー チェーンのビジネス プロセス管理への適用

バリュー チェーンと並んで、ビジネス プロセス管理 (BPM) もビジネスの成功に貢献します。BPM はビジネス慣行、組織構造、目的、中核戦略を幅広く捉えます。BPM は目的の明確化、リソースの調整、プロセスの統制を提供するエンドツーエンドの戦略を提唱します。テクノロジーが独立した存在として扱われるのではなくビジネス イニシアチブに統合された今、BPM は劇的に変化しています。バリュー チェーンはこのプロセスを後押しすることができます。顧客満足を維持するための関係やプラクティスを改善するために、関連するビジネス活動の有益な分析を提供するからです。

 

バリュー チェーンとビジネス モデルの違い

ビジネス モデルはビジネス機能の理解と相まって、業務上の意思決定、技術上の意思決定、そして情報に基づく意思決定の土台となり、バリュー チェーン システムの成功を支えます。バリュー チェーン モデルは重要であるとはいえ、企業全体のビジネス モデルやビジネス戦略の一部分にすぎません。

ビジネス モデル

バリュー チェーン モデル

コミュニケーションとテクノロジーに重点を置いた、財務的支出の根拠と計画を提供する

顧客が製品やサービスを購入し続けるための個別の機能を実行するために必要な連携をモデル化し、説明する

組織構造、必要なテクノロジー、顧客 ID、社内文化を定義するアーキテクチャ

プロセスを実行するための仕組み

 

バリュー チェーン モデルで特定された連携のプリズムを通して、コスト削減と差別化を認識できます。バリュー チェーンは物理的な製品をエンド ユーザーの手元に届けるまでのインプット、構築、アウトプットという流れに沿って、ビジネスをサポートします。バリュー チェーンとビジネス モデルは、プロセスが費用対効果に優れ、収益性、ブランド ロイヤルティ、リピート客といった望ましい結果を生む場合に成功します。

バリュー チェーンの大まかな分類

バリュー チェーンは、組織内および組織横断的にどのように使用されるかによって、以下のように分類できます。

  • 物理的/伝統的なバリュー チェーン: 物理的な有形リソースが使用されるバリュー チェーン。
  • バーチャル バリュー チェーン: 仮想的な電子情報が使用されるバリュー チェーン。
  • ビジネスユニット バリュー チェーン: 組織全体ではなく、特定の事業部門に焦点を当てたバリュー チェーン。別の社内バリュー チェーンと組み合わせられる場合もあります。
  • グローバル バリュー チェーン: 国境や地域を超えたバリュー チェーン。多国籍のパートナーシップや貿易協定もこのカテゴリに含まれます。

バリュー チェーン モデリングを使用する部署と業界

ほとんどの組織にとっての関心事は、バリュー チェーン モデリングを使用しているかどうかではなく、バリュー チェーン モデリングの実施と分析がどの程度行われているかということです。ポーター (Porter) 氏の一般的なバリュー チェーンは、製造、小売、流通、飲食サービス、テクノロジー、建設など、さまざまな業界に簡単に適用できますが、適用対象を企業にすることもできます。特に、コスト削減や差別化の機会を求めている、競争の激しい分野の企業に適しています。以下に例を示します。

  • 飲食業: 飲食業向けのバリュー チェーン モデリングは、原料の調達から顧客の消費に至るまでの流れを追います。たとえば、Starbucks (スターバックス) の場合は、コーヒー豆の調達から、コーヒー飲料のカスタマイズや顧客への提供に至るまでのコストとプロセスから着手することになります。
  • 配送サービス: FedEx (フェデックス)、UPS、USPS などのサービス プロバイダーは、配送スピードの向上、コスト管理、キャパシティ管理のためのインフラストラクチャとサービスに投資します。このような業種のバリュー チェーン モデルでは、サードパーティのサプライヤー、保管場所、輸送規制の影響を受ける複雑な環境での商品配送に伴う物流を分析することができます。
  • オンラインと実店舗の小売業: 小売業向けのバリュー チェーンでは、Amazon (アマゾン) や Walmart (ウォルマート) などの企業が顧客に商品を販売するためのアクションを定義します。Amazon (アマゾン) は「地球上で最もお客様を大事にする企業」を目指し、その使命を果たすために改善を重ねています。Walmart (ウォルマート) は顧客のコストを低く抑えるために、常にサプライヤーを評価しています。バリュー チェーンを使用すれば、製品の製造から在庫の保管や顧客への配送までのプロセス全体を通して、各アクションを監視できます。

以下のサンプルは、ポーター (Porter) のバリュー チェーン モデルに、Walmart (ウォルマート) のような大手小売店に関連すると思われる主活動と支援活動を入力したものです。このサンプル テンプレートは、業種を問わずどの組織にもガイドとして使用できます。

 

Walmart value chain analysis

バリュー チェーンを活用している企業は、世界市場に名をはせる「有名企業」です。Rolls-Royce (ロールス・ロイス)、Starbucks (スターバックス)、McDonalds (マクドナルド) をはじめ、銀行、農業、通信のあらゆる業界の企業が名を連ねています。

とはいえ、バリュー チェーン モデリングで競争上の優位性を見出すのはグローバル企業だけではありません。人事、マーケティング、営業、調達、カスタマー サービス、IT のように相互に依存する部門や、サプライヤーから流通業者までの協力的なバリュー システムも、それぞれのバリュー チェーンを通じて、コストの優位性や独自の差別化を図ることができます。例を以下に示します。

  • CRM バリュー チェーン: 顧客関係管理 (CRM) バリュー チェーンを通じて提供されるカスタマー ジャーニーや顧客体験に付随するプロセス、フロー、コストでは、顧客のやりとりを追跡し、関係性と価値を高める機会を特定できます。
  • ブランド バリュー チェーン: 強力なブランド アイデンティティや市場における高い価値に伴うメリットを確保し享受することにつながる有形無形の差別化を特定します。
  • 病院/医療バリュー チェーン: 病院は 5 つのポイントで構成されるバリュー チェーンを使用して、期待されるレベルの価値をできるだけ少ないコストで達成する、患者中心の治療に焦点を当てます。

政府、国際機関、人道支援団体も、バリュー チェーンを使用して、その地域の文化的な慣習を尊重および奨励しつつ、貧困撲滅、経済支援、必要なインフラの整備に向けた価値提案を特定し、最適化しています。たとえば、ガーナのトマト農園は、地理的条件、クレジットへのアクセス、政府の干渉、栽培方法の改善を対象としたバリュー チェーン分析によって利益を得ています。

 

バリュー チェーン分析の課題

この記事では、バリュー チェーン モデリングの 4 つの直接活動および 5 つの間接活動を通じて、地域、国、世界を問わず組織が経験する価値あるメリットについて説明してきました。しかし、課題もあります。その最大のものは、バリュー チェーンに影響を与える何千もの直接的および間接的なタスクや活動を特定する作業です。個々の組織や業界特有のニーズはテンプレート化することができないため、タスクの特定や計画の策定には非常に時間がかかることになります。

バリュー チェーンは利益領域や競争上の差別化要因を特定するための関係構築ツールです。しかしバリュー チェーンは固定的なものではなく、事業展開の状況を反映できるように、常に注意、評価、更新を怠らないようにする必要があります。マイケル・ポーター (Michael Porter) 氏が言うように、「競争上の優位性は、価値システム全体を構成し管理する新しい方法を見つけることから生まれる」のです。ポーター (Porter) 氏がバリュー チェーンを提唱した当時、コンピューターやモバイル デバイスは普及していませんでしたが、そのモデルは新しい現実に適応してきました。進化するテクノロジーに対応し、変化する従業員に適応し、グローバル経済とともに拡大するバリュー チェーンを構築し導入できるかどうかは、その組織次第です。

バリュー チェーンのリソース: 専門組織

バリュー チェーン分析に従事している方や関心のある方は、このテーマに特化したさまざまな専門組織、ベスト プラクティス、ツール、方法論を見つけることができます。

  • Supply Chain Council (サプライ チェーン協議会) は、Supply Chain Organizational Reference (SCOR) を管理する 700 以上の組織からなる世界的なコンソーシアムです。
  • SCOR は、ポーター (Porter) 氏が提唱したモデルに関連する活動 (サプライ チェーン、計画、調達、製造、受注管理、物流、返品/小売、製品設計、リサーチ、プロトタイプ、統合、発売、CRM、サービス サポート、販売、アフター サービス、契約管理) の参照モデルです。
  • 米国国防総省は、新しい Design Chain Operations Reference (DCOR) モデルを採用しています。DCOR は、プロセス、メトリック、プラクティスを 1 つの構造にまとめるためのプロセス フレームワークです。米国国防総省は、バリュー チェーン全体の中で販売活動やマーケティング活動に焦点を当てているわけではありません。
  • e3-value 手法は、顧客、サプライヤー、サプライヤーのサプライヤーのネットワークにまたがるビジネス モデルを段階的に作成するアプローチです。
  • ヴァーナ・アリー (Verna Allee) 氏が開発した HoloMapping® と ValueNet Works™ の分析では、バリュー ネットワークのシステム全体を把握できます。

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