バリュー チェーン分析の技術 – 活動の定義から改善すべき分野の特定まで

By Kate Eby | 2017年2月19日

現在バリュー チェーンと呼ばれているものに最初に言及したのは、フランソワ・ケネー (Francois Quesnay) の著作物であることが知られています。ケネー (Quesnay) は 15 世紀のフランスで生産的な仕事を構成する要素について著しましたが、生産と利益に関するその発見は Tableau Economique (経済表) の基礎となっています。1985 年、マイケル・ポーター (Michael Porter) 氏は画期的な著書『Competitive Advantage (邦題: 競争優位の戦略)』の中でバリュー チェーンを示す斬新で現代的なモデルを最初に発表しました。当時の多くの企業経営哲学と同様に、このモデルも現在の集成的な考えと投資家の見方を考慮に入れて応用や修正が行われてきました。それでも、30 年を経た現在も、ポーター (Porter) の汎用的なバリュー チェーン構造は活用されています。

この記事では、バリュー チェーンの進化と適応について掘り下げて、バリュー チェーン分析の現在のアプローチ、メリット、課題を検討します。また、今後のバリュー チェーン分析や、現在の業界でのプロセス管理に役立つソフトウェア ツールについても取り上げます。

バリュー チェーンとは何か、誰が使うのか

バリュー チェーンとは、価値ある製品やサービスを市場に出すために会社内で行う活動のことであり、バリュー チェーンの各段階で付加価値が高められていきます。バリュー チェーンは、企業の生産性を可視化する手段となり、関係する何千もの活動を個々に識別することができます。ポーター (Porter) 氏は「バリュー チェーンは、付加価値を加味した価格を見込める買い手価値の源泉と、ある製品やサービスが他のものに取って代わられる理由を厳密に理解するための手段となる。」と説明しています。  

ビジネス アナリスト、プロジェクト マネージャー、管理者は、バリュー チェーン分析を活用して、どの活動が収益を最大化し、競争優位性を確立するための最良の機会をもたらすのかを見極めています。経営陣が「どのようにイノベーションを起こすか」という課題に直面することはごく一般的なことです。そのため、Procter & Gamble (プロクター アンド ギャンブル)、Intuit (インテュイット)、Shell (シェル)、Nokia (ノキア)、Apple (アップル)、Samsung (サムスン) といったグローバル組織は、バリュー チェーン分析を取り入れて、勝利の戦略を実行し、競合企業に打ち勝ってきました。

バリュー チェーンは、それを認識し、分析しているかどうかにかかわらず、テクノロジー、製造、医療、政府、金融、小売といったどのような業界の企業にも存在します。小さなアイス クリーム店でさえ、クリーム、砂糖、カップの入荷から、採用、クーポンの配布、クリームの撹拌、ひいては溶けやすいアイス クリームのコーンをお客様に手渡すまでのあらゆる過程に、バリュー チェーンの要素があります。このバリュー チェーンを効果的に管理することで、コストを抑制し、差別化を図る機会が得られます。顧客を増やして、ブランドの価値を高める方法を見つけられます。そのため、バリュー チェーンの管理、分析、戦略を実施して、競争優位性を確立または維持することがますます重要になってきています。  

バリュー チェーンの定義

  • バリュー チェーン - 価値ある製品やサービスを市場に出すために会社内で行う活動。
  • バリュー チェーン分析 - 活動を分析して最も価値ある活動を見つけるための手段。
  • ポーター (Porter) のバリュー チェーン - マイケル・ポーター (Michael Porter) 氏によって考案されたフレームワーク。価値をもたらし、競争優位性を生み出す活動を明確に特定できる。
  • バリュー チェーン管理 - 共同作業を増やして、競争優位性を高め、顧客満足度を向上するために、商品やサービスの生産において付加価値を生み出す活動を特定して体系化するプロセス。

ポーター (Porter) のバリュー チェーン モデル

ポーター (Porter) のバリュー チェーン モデルは、9 つの要素 (5 つの主活動と 4 つの支援活動) で構成されています。このモデルは、生産までにかかるコストと、消費者が支払いたいと思う価格の関係を分析するために役立ちます。バリュー チェーンは、何が最も価値ある活動であるかを調べられるため、自社製品やサービスを競合製品と差別化する機会、イノベーション、慣行を見つけるためにも使用されます。  

「主活動」とされる 5 つの機能的な領域があります。これらの機能は、以下の図のように論理的な順序で横方向に並べて表されます。 

 

まず、主活動と支援活動、そして各活動内のタスクを特定します。次に、価値ある活動と無駄な活動を選別します。そうした情報を使って、価値を最大化して無駄をなくすために変更できることを見つけます。

購入物流: 材料を入手し、保管し、処理する活動を表します。これには倉庫管理、在庫管理、スケジュール設定、ベンダーからの返品などが含まれます。

オペレーション: この領域は、組み立て、テスト、ラベリング、パッケージング、施設全体の運営といった最終製品の製造や開発に伴うすべての活動を表します。

出荷物流: 開発を終えると、製品を出荷する段階になります。注文処理、スケジュール設定、倉庫での完成品の保管、配送などの活動を特定します。

マーケティングと販売: この活動には、ブランディング、広告、プロモーション、販売員管理、価格設定、見積りなどが含まれます。

サービス: 製品のメンテナンス、取り付け、修理、トレーニングなどはすべてこの機能に含まれます。

また、これら 5 つの主機能をサポートする 4 つの「支援活動」があります。これらの活動は、企業全体にわたって分散しているため、モデルでは主機能の上に垂直に「傘」をかぶせたようになっています。  

企業インフラ: 財務、法務、品質業務、政府関係業務、総務、経理といったビジネス構造全体に密接に関連している活動が含まれます。

人的資源管理: HR 領域には、ビジネスのあらゆる分野で人材の採用、トレーニング、報酬、動機付けの方法を提供する責任があります。

技術開発: この領域には、研究開発だけでなく、電話や企画、オフィス オートメーション、注文処理方法、手順など、ビジネス全体をサポートするためのテクノロジーの利用法が含まれます。

調達活動: この活動には、原材料や物資の購入、ベンダー認定、建物やリース、情報システム開発、フリート管理などが含まれます。

これらは、ポーター (Porter) の汎用的なバリュー チェーン モデルを構成する個々の機能と活動です。このモデルを使うことで、組織構造の設計や再設計を行えるほか、経営や分析の戦略を立てて、コスト優位性と差別化の機会の両方を特定できます。 

バリュー チェーン分析を適用するには

主活動と二次的な活動を調査し、コスト優位性のある分野を見つける際には、事例モデルを活用することが大いに役立ちます。ただし、コストの機会を分析するにあたっては、市場での最低コストが必ずしも顧客の価値を開発するための最良の方法になるわけではないとポーター (Porter) 氏は主張しており、その代わりに、競合企業から「突き出る」ようなタスク、ポリシー、製品の改善を特定するよう提唱しています。買い手がある製品を競合製品と比較した上で選択する際には、そうした主要な差別化要素を考慮している可能性があります。

航空業界は、差別化の良い例です。多くの航空会社は同じような環境で運営されており、コスト構造や航路も似ています。差別化の方法には、明白な要素 (最低料金や定時運航記録) もありますが、より小さな領域 (搭乗手続き、機内持ち込みポリシー、航空会社のマイル、さらにはソーシャル メディアでの話題性など) が結果的に大きな差別化をもたらし、顧客ロイヤルティを高めることがあります。Eastern Airlines (イースタン航空) の事例は、人を第一に考えることが、どれほどマーケティングにおいて確固たる地位を築くことにつながるかを示しています。製品やサービスに対して顧客が認知する価値を高める機会を特定して利用するには、効果的な事例の分析によって見い出された要素を活用することが重要です。  

差別化を分析する上でのポイントは、5 つの競争力が「バリュー システム」全体を構成しているという点です。ポーター (Porter) 氏は「競争優位性の獲得と維持は、企業のバリュー チェーンだけでなく、バリュー システム全体での企業の位置付けを理解できるかどうかにかかっている。」と指摘しており、「チェーン」という言葉が示すように、チェーン内には個々の独立した活動それぞれを支援するための欠かせないつながりがあり、相互に依存している領域があります。バリュー チェーンは、サプライ チェーン (購入活動の初期段階) と買い手のチェーン (最終段階) の両方を含むバリュー システム全体の一部分です。そしてそのすべてが、リピート販売やブランドの成功によって評価される、買い手の満足度やロイヤルティに焦点を合わせています。  

2017 年には、Directive Consulting (ディレクティブ コンサルティング) のマーケティング マネージャーを務めるショーン・マーティン (Sean Martin) 氏によって、ビジネスを成長させる目標を見分けるためにバリュー チェーン分析が活用されました。「会社の規模は倍になりましたが、注意を集中していきたいと考えています。会社のさまざまなシステムを大量に分析する必要があります。面倒なやり方に思えるかもしれませんが、再編成と再フォーカスにはこれまでとても効果的でした。Directive (ディレクティブ) を直接的に成長させる 5 つの目標と、今度追跡していく 3 つのメトリックを明確にし、成長に直接影響を与えないものについては、手をつけないことにしています。」とマーティン (Martin) 氏は話します。

バリュー チェーンを活用する際の注意点

バリュー チェーンを適切に導入できた場合、組織内で行われている何千もの個々の活動を調査して分析するための有用で有益な手段となります。ただし、バリュー チェーンを構成するすべての活動とリソースを徹底的に調査するには、かなりの時間がかかります。加えて一般的には、バリュー チェーンの開発にあたって数多くの利害関係者を関与させることが推奨されますが、容易なことではありません。

ポーター (Porter) のバリュー チェーンは、汎用的なモデルであり、厳格で規範的なフレームワークではありません。ポーター (Porter) 氏自身も、柔軟に取り入れられるよう計画することで、より有用なバリュー チェーンを生み出すことができると述べています。バリュー チェーンのすべての要素はすべての業界に存在していますが、主機能と支援機能のすべてが同じように構築されているわけではないため、必要な情報を見つけ出すのが難しいこともあります。例えば、購入と出荷の活動に対する要求が多い業界 (流通業など) もあれば、複写機メーカーのように、設置、トレーニング、販売後のサービスといったサービス業務により重点を置く会社もあります。つまり、企業のバリュー チェーン分析には、総合的思考、観察、効果的なデータ収集が必要であり、それによってコストを削減したり、競争上の差別化要素を取り入れたりできる領域を特定することが可能となります。

実務者が各活動領域を独立した完全な機能と考えてしまう可能性があるという点も、ポーター (Porter) のモデルに厳格に従った場合に起きる問題です。この問題に対処するため、ポーター (Porter) 氏はチェーン内の主機能と支援機能の「橋渡し」を行う機能横断型のアプローチを提唱しています。さらにポーター (Porter) 氏は、オリジナルのモデルで個別の活動とされているものの一部は、差別化やコスト管理の領域を見い出すために移動させることができるとも述べています。例えば、一部の業界では注文処理を「購入物流」ではなく、「マーケティングと販売」で扱うほうがメリットが大きくなります。  

業界での活用とグローバル バリュー チェーン

バリュー チェーン モデルは、その汎用的な構成から、ビジネス ユニットを越えて拡張できるスケーラブルなシステムとなっています。大きな産業セクター (ソフトウェア開発など) は、汎用的なバリュー チェーンを拡張することで、独自のニーズに対応してきました。また、国際的なポリシーの適用にもバリュー チェーンが活用されており、そのようなグローバル チェーンを使って、政府や多国籍連合と協力する民間セクターや公共セクターの企業との新しい統合的なパートナーシップを見い出しています。バリュー チェーンは、さらに発展途上国に対する人道的な活用方法もあり、アフリカの零細産業やエジプトのアクアフィードを支えています。

バリュー チェーン テンプレート

競争優位性に関するポーター (Porter) 氏の書籍は、依然としてバリュー チェーンの導入、管理、分析について包括的に理解するための最良の資料となっていますが、特定の産業での活用法については、他にも多くのベスト プラクティスが登場しています。バリュー チェーンには、追跡および分析の対象となる何千 (あるいは何百万) もの個々の活動が存在する可能性があるため、これらの活動を管理するための専門的なテンプレートやソフトウェア ソリューションが広く提供されるようになっています。こういったツールを補完的に活用することも、活動の規模を問わず、価値の変化を常に継続して管理および分析していくために役立ちます。

バリュー チェーン分析の目標

バリュー チェーンを分析する際は、最適化と調整が必要な領域を探し、短期および中期の重要なソリューションを見つけ出します。最適化とは、システムの機能を向上させる要素、つまりコストを下げて品質を高める要素に取り組むことです。あるコーヒー焙煎所が有機農家から製品を調達することで市場利益を得ているとします。それから「マーケティングと販売」の領域に、その製品を競合製品と差別化するための位置付けとブランディングを割り当てます。調整作業が行われた後に、変化をもたらして新しい価値やさらなる価値を顧客に提供するタスクが適宜配置されます。

バリュー チェーンのメリット

バリュー チェーン戦略では、競争優位性の維持や確立を目指します。これは目的を持って構造化されたプロセスを用いることで達成できますが、成長とイノベーションを実現するために、企業内で効果性のある部門横断的な関係を構築する必要があります。最適化と調整を行って差別化領域を作り上げることにより、コストの削減、顧客価値の向上、市場での優位性といった実際の結果をもたらすきっかけが得られます。効果的なバリュー チェーン分析により、次のことを達成できます。

  • 価値ある活動と時間を無駄にする活動を特定する。
  • ブランドの評判を向上する。
  • 弱み、機会、脅威に迅速に対処する。
  • コストを削減する。
  • 生産性を向上する。
  • 顧客満足度を向上する。
  • サービス/製品の提供を効率化する。
  • 競合企業と差別化し、競争優位性を獲得する。
  • 利益率を明確にする。(顧客に提供する価値を特定し、その価値創出に関連するコストを差し引いて、利益率を求めます。)

バリュー チェーン分析の将来

事前に定義されたテンプレートや簡易なソフトウェア ソリューションを使ってバリュー チェーンを管理することは、ますます難しくなってきています。テクノロジーは顧客の行動に大きな変化をもたらし、バリュー チェーンにおける活動にも影響を与えています。さらに、大規模なグローバル組織は活動を地域や世界にアウトソーシングする傾向があり、これによって複雑さも増しています。このようなことから、一部の業界では、バリュー チェーンに対するアプローチを見直し、ビッグ データを処理する高度なソフトウェアを活用してデータを分析することが求められる場合があります。例えば、小売業はテクノロジーに適応しなければ、淘汰されてしまいかねません。小売業のバリュー チェーンにおける生産から消費までの付加価値を理解するために構造化されたアプローチについては、こちらをご覧ください

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