CRMとは
CRMとはCustomer Relationship Management(カスターマー・リレーションシップ・マネジメント)の略で、日本語では顧客関係管理または顧客管理と呼ばれます。
顧客との関係性、コミュニケーションを管理を一元的に把握できるようにします。そのために使われるシステムは、「CRMシステム」と捉えるのが適切ですが、現在ではシステムも含めてCRMと呼ぶのが一般的です。
MAとの違い
MAとCRMは、顧客に対する情報管理という点で、同じようなものと考えられるかもしれません。しかし、実際にはそれぞれ異なる目的で利用されます。
MAは Marketing Automation の略語です。マーケティングの主な役割は、ターゲット層から顧客になってくれそうな見込み客を育成して商談へと進めていくこと、つまり、リードナーチャリングです。
MAでは、このような見込み客の獲得から絞り込みまでを仕組み化することによって営業活動の効率化を図ります。そもそも、セールス・マーケティングプロセスは、見込み客の獲得、育成を経て顧客になった人たちと商談を行うビジネスモデルです。このビジネスモデルにおいて、見込み客の育成までがMAの役割になります。
一方のCRMは、既存顧客への対応を担っています。CRMでは、具体的には顧客満足や顧客ロイヤリティの向上を目的としています。セールス・マーケティングプロセスの一連の流れにおいては、見込み客育成の次の段階でもある、商談や顧客の維持活動に活用されます。効率的なセールス・マーケティングプロセスには、MAとCRM両方の活用が必要不可欠です。
SFAとの関係性
SFAは Sales Force Automation の略語です。マーケティング活動によって案件化された商談を進めるための業務全体を管理・サポートしてくれるのがSFAです。相手先の企業情報、商談の進捗状況、受注予定日、相手とどのようなコミュニケーションをとったのか、数値やテキストで入力します。属人化しやすい営業業務を、標準化・組織化するだけでなく効率化する。それがSFAの役割です。
CRMとSFAの共通点はどちらも顧客情報管理を主体としたシステムという点です。異なる点は顧客情報のアウトプットです。ただ、最近ではCRMとSFAを統合したシステムや製品も多く登場し、その境界線は曖昧になりつつあります。近い将来、CRMとSFAの境界線がなくなり、完全に統合される可能性もあります。
CRMが必要とされる背景
今、顧客管理を行うにあたってCRMが必要とされるのには、いくつか理由があります。特に重要な2つのポイントを見ていきましょう。
既存顧客囲い込みが重要になったため
大量の製品や情報がで溢れている現代の社会では、製品の差別化が難しくなっています。その結果、認知度を向上させ、新規顧客を獲得するためのコストや期間は増大しています。
新規顧客を獲得するためには既存顧客を維持することに比べて5倍の費用がかかるという「1:5の法則」が存在します。
また、顧客離れを5%防ぐことができれば、利益はその5倍の25%改善する「5:25の法則」の存在も無視できません。
これらのポイントを踏まえると、既存顧客の維持に力を入れるほうが経営の観点からは効率的といえるでしょう。
また、パレートの法則によると「企業の売上の80%は20%の優良顧客から生まれている」のです。そのため、既存顧客のロイヤリティを高めて優良顧客を増加させることが売上向上に繋がると考えられます。
この顧客中心のビジネスを成功させるには、既存顧客へのきめ細やかなフォローが必要です。そのため、顧客情報を綿密に管理する必要性が高まり、CRMがこれまで以上に重要視されるようになってきました。
多様なニーズへの対応が必要になったため
情報化が進み、消費者が必要な情報を簡単に入手できるようになったことで、顧客ニーズが多様化しています。顧客満足度を向上させるには顧客のニーズに合ったきめの細かい対応をすることが求められるため、顧客情報の適切な管理が非常に重要となります。
例えば、年齢や性別、地域、利用の履歴などを分析することで、顧客のニーズに合った製品やサービスを提供できるようになります。
CRMの用途
BtoBとBtoCのビジネスモデルの違いや会社規模の違いによって、CRMの使い方がどのように変わるのかを紹介します。
BtoBビジネス
BtoBの営業は企業を対象として営業活動を行うため、受注金額が大きくなりクロージングまでの時間も長くなることが多くあります。また、案件の担当者と決裁者が異なる場合が多く、商談回数が多くなる傾向にあります。
顧客の数も限られているため、新規顧客を多く獲得するという手法ではなく既存顧客と良好な関係を築きつつ継続的な取引を目指す営業スタイルとなります。
また、商談プロセスでは顧客の上層部へアプローチするため、マネージメント層や経営層に同行して営業を行うこともあります。このことからも、社内における営業情報のスムーズな共有が必要となってきます。
BtoCビジネス
BtoC領域でのCRMの役割は、お客様とのコミュニケーション履歴を記録し、管理することに主眼が置かれています。
コミュニケーション履歴は、オンライン・オフライン問わず記録され、問い合わせメールやストアでの購入といったお客様のアクションをトリガーとして、さまざまな形でメッセージを発信してお客様のエンゲージメントを高めていくことが求められます。
適切なタイミングでメッセージを発信するためには、お客様の行動を分析し、自社とお客様との接点を洗い出して、詳細なカスタマージャーニーマップを描いておくことが重要です。
大企業
大企業において、CRMの大きな目的は「部署内・部署間連携の強化」にあります。CRMを導入することで、部署ごとの「個別最適」ではなく企業としての「全体最適」を追求できます。
CRM導入後は、すべての部署において、あらゆる顧客データを、同一のインターフェースで確認できるようになるため、社内のコミュニケーションがスムーズになるメリットがあります。
中小企業
中小企業でも、大企業と同じくCRMによる連携強化のメリットはありますが、それ以上に「業務属人化の防止」が大きなポイントです。
小さな組織では、数人の優秀な営業担当者が個人で見込み客や商談中の顧客の状況を把握して営業活動を行っているケースが多く見られます。そのため、それらの担当者が休職・退職すると体制が崩壊してしまいます。
CRMを導入することで、営業担当以外でも顧客情報を確認できるようになり、業務の属人性を解消できます。CRMを通じて、顧客情報を会社の資産として活用できる体制の構築を行えます。
CRMの基本機能
CRMにはさまざまな機能がありますが、どれも顧客情報を有効に活用するための機能です。
ここでは基本的な5つの機能を紹介します。
顧客管理機能
顧客情報管理はCRMの最も重要な機能です。
顧客情報といっても、氏名や電話番号、住所、メールアドレスなど、基本的な項目のみを管理するのではありません
管理可能なデータは、購買履歴、サポートセンターへの問い合わせ履歴、キャンペーンの応募状況、クーポンの取得歴など多岐に渡ります。
メール配信管理機能
CRMにはメール配信管理機能もあります。
具体的には、下記メールを特定の条件を満たす顧客に配信する事が出来ます。
・新商品の宣伝メール
・イベントやキャンペーン情報
・システムからのお知らせ
従来の顧客管理方法では、メルマガ配信する際、担当者が顧客情報を抽出してから別のシステムからメールを送信するのが一般的でしたが、CRMのメール配信管理機能を利用すると、特定の顧客にメール一括送信できます。
外部サービス連携機能
多くのCRMでは、管理画面で外部メールサービス (Gmail・Outlook) や各種SNSなど既存アカウントと連携できます。
特定の外部サービスを利用して顧客とのコミュニケーションを行っている場合、導入を検討しているCRMがその外部サービスと連携機能なのか確認する必要があります。
問い合わせ管理機能
メールやwebフォームからの問い合わせは、CRM内で管理され自動でカテゴリー分類されます。
サポート担当者がこれらの問い合わせに対応する時には、下記のサポート機能を使うことで、対応の効率化、顧客満足度の向上が期待できます。
・回答テンプレート
・FAQの参照
・過去にあった類似問い合わせ履歴の参照
・顧客の詳細情報参照
これらの機能を活用すれば、少人数でも営業業務の効率化・自動化が可能になります。
情報セキュリティ機能
企業の顧客情報を守るためのセキュリティ機能も搭載されています。利用者が「いつ、誰が、どこから、何をした」という操作情報や「どのデータを印刷、ダウンロードした」といった情報が逐次記録されるため、情報流出を予防する効果が期待できます。
また、ファイル共有機能を用いて、顧客から届いた書類などを関連部署で共有・閲覧することができます。添付書類はCRMから持ち出せないので、情報漏洩などのリスクを軽減できます。
顧客情報の分析機能
分析機能では、リアルタイム集約された顧客のデータをRFM分析などに活用ができます。
RFM分析とは、Recency (直近いつ)、Frequency (頻度)、Monetary (購入金額)の3つの指標を用いた分析手法です。
これらの3指標で顧客を並べ替え、顧客を段階的にグループ分けします。その上で各グループの性質を理解して、マーケティング施策を行う手法です。時間の概念が入っているので、過去に高額商品を1回だけ購入した顧客と、最近少額の商品を複数回に購入した顧客が同じグループに入ることがなく、明確に分けて施策を行うことができます。
分析機能を活用することで、マーケティング担当者や営業マネージャー、経営者は顧客の傾向を把握し、より効果的な施策を行えます。
CRM導入のメリット・デメリット
CRMを導入しようと検討している場合には、メリットはもちろんデメリットも把握しておくことが重要です。
メリット
CRMを導入するメリットとして以下の点が挙げられます。
・顧客情報を一元的に管理し、全体で共有できる
・営業部署全体で一貫した営業活動に取り組める
・蓄積した情報をマーケティングに活用できる
・顧客ごとに営業活動が可視化される
・データ分析により新たな戦略を策定できる
もちろん、一番のメリットは顧客情報管理です。これはCRMシステムを導入したすべての企業が得られるメリットとなります。
CRMが導入されていない環境での顧情報管理は、Excelや個別のデータベースで管理するのが一般的でした。しかし、こうした環境下で管理を行う企業では、「顧客情報の属人化」という課題がありました。
情報管理の属人化は、部署全体の業務効率化を阻み、時には様々なトラブルの原因となります。そのため、顧客情報を部署全体で共有することが、営業活動の効率化、さらには売上の向上に繋がります。
また、蓄積した顧客情報は様々な形で活用できます。例えばマーケティング機能と連携すれば、確度の高い見込み客を抽出し、セールスステージ毎に個別のマーケティングを展開できます。
デメリット
CRMのデメリットとして最初に挙げられるのは、やはりコストです。
CRMの導入には大きなコストがかかります。導入前の段階で費用対効果を試算するのが難しいため、大きな導入コストはデメリットと捉えられるでしょう。
CRM活用に必要となるコストは企業の規模や、ビジネスモデルにより様々ですが、基本的には導入コストと運用コストの2つに分類して考えます。
導入コストは、サーバの購入や設置などインフラ関連コスト、パッケージ購入のコストがあります。それに対して運用コストとは、運用にかかる人件費、サーバ運用費用などが含まれます。運用コストは継続的に発生するものなので、製品の選定を慎重に行う必要があります。
もう1つのデメリットは、顧客とのやり取りがシステム化されることで、業務の柔軟性が失われてしまう可能性があることです。
CRMを導入することによって、顧客対応業務の効率化に繋がるのはメリットなのですが、顧客の要望に合わせて都度対応を行っている会社では、対応業務をシステム化することでその柔軟性が失われます。既存顧客にとっては「サービスの改悪」と捉えられる可能性があります。
顧客満足度を低下させてしまう結果にもなりかねないので、導入時は十分な運用設計が必要です。
CRM導入の際の注意点
多くのメリットがあるCRMですが、システムの構造的な問題として、運用時の過度なコストパフォーマンス要求、直接的な売上向上効果の期待には注意が必要です。
CRM導入で期待できる効果を社内全体で共有できていないと、正しい評価を行えなくなってしまいます。
CRMは顧客情報を管理するためのシステムであり、蓄積される顧客データを活用することで、中長期的な売上拡大や顧客満足度向上が可能となります。
一般的には、顧客情報の登録から、マーケティング戦略まで落とし込むには時間がかかります。そのため、CRMは顧客との長期的な関係構築に効果を発揮するシステムなのです。
CRMを活用する際には売上向上ではなく、顧客のエンゲージメントを高めていくことをメインに据えましょう。
CRMを活用した顧客管理のポイント
CRMを導入しただけでは、期待される効果を得ることはできません。ここでは、顧客管理のポイントについて解説します。
導入目的を明確にする
何を目的としてCRMの導入を検討しているのか、明確にしておきしょう。一般的な導入目的としては、顧客との関係性強化・満足度の向上、顧客単価の向上、顧客管理業務の効率化などがあります。
例えば、顧客との関係性強化に重点を置くならば、顧客とのコミュニケーション記録を残しやすくデータの分析機能が優れている製品が合っています。また、業務の効率化に重点を置くならば、データ入力のしやすさなど操作性の優れた製品を選ぶべきでしょう。
このように、目的から逆算して必要な機能をリストアップしていくことで、自社にどのようなシステムが必要なのか明確になります。
KPIを設定する
CRM導入の際にはKPI(重要業績業界評価指標)の設定も重要です。どんな数値を指標にするかを明確にしていないと、正しく実績を評価できない可能性があります。
どんなKPIを設定するかは企業ごとに異なります。KPIは結果も大切ですが、その結果を分析し、改善策を立てることが最も重要です。
KPI設定の際は、達成可能かつ測定可能な数値を目標にしましょう。あまりにも抽象的な数値ばかりだと具体的な改善行動につながりません。自社に合った適切なKPIを見つけ、業務に活かしていきましょう。
代表的なKPIを3つ紹介します。
・継続率
どれだけの新規顧客がリピートしてくれたのかを表す数値です。
どんな商材でもリピーターは重要であり、売上を支えているのがリピーターである企業は多いでしょう。
リピーターが多いということは、売上安定に繋がるだけでなく、高い顧客満足度もも示しています。
・客単価
1人の顧客がどのくらいのお金を使ってくれたのかを示す指標です。平均客単価が上がれば、生涯顧客価値 (LTV) も上がります。
既存顧客の場合は、購入点数を増やしたり、より高額な商品をすすめたりすることが有効とされています。
・解約率
特にサブスクリプション型サービスで設定しておきたいのが、解約率です。
解約率とは、解約をした顧客の割合を表します。サブスクリプション型サービスは、商品の購入で金額を支払うのではなく、一定期間の利用料金を支払うサービスです。そのため、解約率が高い場合は顧客満足度に原因があると考えられ、サービスの改善を検討する必要も出てくるでしょう。
まとめ
CRMは、顧客との関係性や満足度を向上させるための顧客情報管理システムです。そのためCRMを導入した途端に売上がアップするといった即効性のある効果は得られません。顧客との関係性を見直すことで、顧客を長く引き留め、中長期的に見て売上を伸ばすことを目的とします。
もちろん、CRMを活用し顧客中心のビジネスを成功させるには、継続的にPDCAサイクルを回していくことが大切です。CRMを導入するだけでなく、自社の顧客管理の施策を評価し、継続的に改善していく必要があるのです。こうすることで初めて正しく、効果の高い顧客管理が実現することができるでしょう。
そのためには自社に最適なCRMソリューションを選定し、導入から定着まで結果を焦らずに続けていきましょう。
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