WBSとは?
プロジェクトマネジメント協会日本支部によると、WBSとは「プロジェクトを各作業要素に分解し、管理しやすいようにしたもの」とあります。
大きなプロジェクト、例えば「新しいオフィスに移転する」という目標があるとします。この目標だけでは達成に向けて動き出すことが難しいので、「エリアを決める」「不動産会社に連絡する」といったタスクに分解します。場合によっては「最寄駅をリストアップする」「不動産会社の連絡先を調べる」など、さらに細かく分解する必要があるかもしれません。つまり、個々のタスクについて具体的に何を行えばいいのか、メンバーが理解できるようにします。これがWBSのポイントです。
WBSの用語とディクショナリー
WBSにはいくつかの用語があり、WBSの作成と使用には、用語の理解が欠かせません。ここではWBSの主な用語と、「WBSディクショナリー(WBS辞書)」と呼ばれる補足資料についても解説します。
- WBSコード(識別コード):WBSを構成する要素には、通常であれば上から下に番号が付けられます。たとえば、「2.1.1」というラベルの付いたアイテムは、3番目の階層にあります。このような番号付けにより、要素が表すタスクのレベル(階層)を即時に特定できるようになります。
- タスク(親タスク):WBSの1番目の階層にあたる部分で、プロジェクトを大まかに分割します。
- サブタスク(子タスク):タスク(親タスク)をさらに分割して、管理可能なワークパッケージ(後述)を作りやすくします。
なお、サブタスクをどこまで分割するかどうかの判断基準に、「8/80ルール」があります。これは、1つのサブタスクの完了に要する時間を8時間以上・80時間未満の間に収めることで、極端に時間が短く済むサブタスクや、反対に時間が長くかかるサブタスクを排除し、タスクの作業量をできる限り均一化することができます。 - ワークパッケージ(ターミナルエレメント):ワークパッケージとは、WBSにおける最小単位で、これ以上分割することのできない作業を指します。個々のワークパッケージは、他のワークパッケージやタスクと切り離して管理する必要があるほか、同一のワークパッケージがプロジェクト内で重複して存在しないように気をつけなければなりません。場合によっては、管理タスクが不必要に増えないように、過度な分割を控えることもあります。多くの場合、ワークパッケージには作業、期間、およびコストを記入します。
ワークパッケージは、ある一定の期間内にチームまたはチームメンバーが実行できる分量を考慮して、割り当てる必要があります。例えば、1週間おきにミーティングを開催する場合、その週に割り当てるワークパッケージの作業量は、1週間以内に完了できるように設定します。 - WBSディクショナリー:WBSの構成要素(タスクやサブタスク)を詳細に説明する資料のことです。WBSとは別のドキュメントを用意して、リンクで繋げることもあります。WBSディクショナリを使用することで、構成要素を明確にして、作業や責任の重複が発生するのを防ぎます。
WBSを使用する目的とメリット
WBSは50年以上の歴史を持ち、大小問わず様々なプロジェクトに活用されています。多くのプロジェクト・マネージャーがWBSを愛好する理由に、WBSの多目的性、すなわち複数の課題を解決できる利便性の高さが挙げられるでしょう。WBSを使用する主なメリットをまとめました。
- プロジェクトの全体像を、視覚的に把握できる。
- プロジェクトの進捗状況を、マネージャーのみならずチームメンバーにも共有できる。
- 曖昧でどこから取りかかればいいのかわからないプロジェクトを、管理可能な単位まで分解できる。
- 各作業で「何をするか」を端的に示して、「完了」「未完了」を明確にできる。
- コストの見積もりが可能になる。
- 全体の中で作業が難しそうな箇所、リスクが発生しそうな作業をあらかじめ発見できる。
- 各作業工程に、作業者とリソースが正しく分配されていることを確認できる。
- 重要な作業が抜けていないか確認して、反対に無駄な作業は取り除くことができる。
- 過去の事例として保存して、将来のプロジェクトの際に参照できる。
とりわけ、最後に挙げた「次の作業の際に参照する」ことは、WBSの長期的な目的と
なります。プロジェクトの後継者となった場合、前回のWBSを参照することで「スムーズに進んだ箇所」と「想定よりも時間やリソースを要した箇所」を確認することができます。プロジェクトを代行する立場になった場合には、前任者が戻ってきた際にWBSを利用して、最新の進捗状況を共有することもできます。
WBSを使用する際の注意点
WBSはプロジェクト管理ツールの中でも汎用性が高いことは確かですが、その他のツールと同じように、必ずしも万能なツールではありません。以下のような点に注意しましょう。
- WBSは「何を」行うかを管理するツールであり、作業の方法、すなわち「どうやって」行うかを管理するツールではありません。前述したWBSディクショナリを用意したり、作業自体に専門性が求められる場合などは、別途マニュアルを用意したりする必要があります。
- WBSは大まかな作業の流れを提供してくれますが、タスクの期限を視覚的を管理する機能は必須ではなく、スケジュール管理が難しい場合があります。その場合、別途タイムラインやガントチャートで、スケジュールを把握する必要があります。
WBSを使いたい仕事の一覧
WBSはプロジェクトマネジメントツールの中でも汎用性が高く、様々な職種・チームで利用されています。その中でも、実際に使用されるケースが多いと思われる仕事を、以下にまとめました。まずは代理店や企業など、チームでの使用例から紹介します。
- アカウントディレクションチーム:クライアントに進捗状況(あるいはボトルネックになっている部分)を示すことができます。プロジェクトの作業要素とマイルストーンを示すガイドラインとして、クライアントとの情報共有に役立ちます。
- クリエイターチーム(デザイナー、ライター、構成担当など):WBSを使用することで、プロジェクトの方針に沿ってアイデアを生み出し、クリエーティブな仕事に集中することができます。
- スコープマネジメントチーム(英語版):代理店が新しいクライアントを引き受ける場合に、予算とタスクを割り当てに際して、プロジェクトのタイムラインと必要なリソースの大枠を把握することができます。
- リモートワーカーおよび内部のプロジェクトグループ:WBSで仕事を視覚化することによって、遠隔で仕事をしていても「誰が」「何を」「いつ」行っているか理解することができます。双方向のコラボレーションにも役立ちます。
- エンジニア・技術者チーム:開発タスクのロードマップとしてWBSを使用できます。もっとも、各技術者が横断的に作業を行う場合が多いため、WBSのみならず他のプロジェクト管理ツールを併用することになるでしょう。
上記のような企業や代理店での使用のほか、様々なフィールドでWBSが使用されています。
- 商業プランナー・開発プランナー:WBSを使用することで、主要な会社のプロジェクトやチームメンバーのタスクだけでなく、ベンダーや下請業者のタスクも含めて、大規模な商業プロジェクトの作業工程を視覚化することができます。また、事業に必要な認可を取得したり、政府の承認を得て進捗状況を追跡したりするための個々の依存関係を追跡することもできます(ただし、このような作業はガントチャートなどがより得意とするところです)。
- イベントプランナー:WBSは複雑なイベントをタスクとサブタスクに分割し、それらを割り当てることで、複数のチームが明確な役割分担の元で作業することができます。
- 住宅および建設プロジェクトマネージャー:通常の商業プロジェクトに関わるタスクに加えて、設備工事や、区画の整理・承認、環境アセスメントなどの段階を追跡できます。
- ソフトウェア開発者:ソフトウェア開発者は、多くの場合、すでにチーム内でのプロジェクトをフェーズまたはステージに分割しているはずです。WBSの主な用途としては、他のチームや組織との共有、状況把握となるでしょう。
- システムエンジニア:システムエンジニアは、プロジェクトの全体像を把握し、最適なパフォーマンスを実現するためにシステムの稼働と更新を維持する責任があります。WBSは、「保守点検」のような大きく漠然としたプロジェクトを階層に分けて、個々のスキルで取り扱うことのできる小さな作業単位に分割します。
WBSを作成する方法
WBSを作成する最初のステップは、チームをまとめることです。リモートワーカーを含めて、専門知識を持つチームメンバーが全員で参加して、タスクを特定する必要があります。重複がないか、あるいは抜けている箇所がないかもあわせて確認します。
また、WBSを作成するために、以下のような資料が必要となるでしょう。
- プロジェクトの概要(綱領)
- プロジェクトの課題点・範囲
- 関連する契約書・合意書
- 作業マニュアル
メンバーと資料が揃ったら、必要な情報を書き出します。「達成すべきことは何か」「そのために必要となる作業は何か」といった切り口で、簡単な付箋やカードを利用しましょう。ホワイトボードや壁に貼って、一覧で見えるようにします。紙とペンでも作業ができますが、オンラインのツールやテンプレートを使うことで、チャートの記録、編集、チームメンバーへの配布が容易になるほか、修正や更新が記録できるようになります。オンライン・ホワイトボードサービスのmiroなど、共同作業ツールが有効です。
1. プロジェクトの要件と定義、各段階(フェーズ)を確認する
ここまでの作業が完了したら、WBSを細かな階層に分解する前に、まずはプロジェクトを全体を捉えて詳細を確認します。前述した資料を活用します。
2. 目標を一覧にする(何を持って達成とするのか?)
WBSの作成を開始するにあたって、プロジェクトの主要な目標、「プロジェクトの成功」をを定義します。
3. 目標を必要なタスクに分割して、管理可能にする
次に、レベル2(階層分けをしたサブタスク)にできるだけ多くの詳細を追加し、レベル3以降(レベル2からさらに下のサブタスク)に、より小さな作業を記入していきます。次のレベルに移動する前に、常に前のレベルで何が必要かをできるだけ詳細に定義することが大切です。
4. 全てのセクションに担当者を割り当てる。
最後に、ここまでの作業が完了したら、担当者を割り当てます。
WBSの作成時のコツとポイント
WBSを作成する際に生じる問題として、項目をどんどん細かくしていくにつれて「どこまで分解すればいいのだろう?」と疑問が生じることがあります。その際には、以下の事柄を頭に置いておくといいでしょう。
- チームの経験が浅く、より多くの手助けが必要な場合は、予めワークパッケージを小さく、短くして設定しておきます。
- 完了までに見込まれる時間が長い、あるいは見込まれる予算が大きい場合も、できるだけワークパッケージを小さく、短く設定します。さらに、報告とレビューをできるだけ短い間隔で行うようにします。
WBSを作る手順は、他のプロジェクト管理ツールに比べるとシンプルです。しかし、いくつか注意したいポイントがあります。
- WBSは、作業の方法(How)ではなく、具体的に達成すべきタスク(What)を計画するツールです。プロジェクトの過程が目見えるプロダクトであれば、何をもってタスクが完了となるか分かりやすいはずです。一方で、目に見えないサービスである場合は、タスクの達成をどのように測定すればいいか、注意して設定することが大切です。
- WBSを作り上げてしまうと、個々のタスクに集中しすぎるあまり、新たに必要なタスクについて考えなくなってしまう危険性があります。WBSで細分化した作業は上位の工程を完了させるために存在しているのであって、必要であれば新たな作業を追加する必要があります。
- タスクが重複していないか、確認をする必要があります。WBSディクショナリーを使用することで、タスクの重複を防ぐことができるでしょう。
- プロジェクトを分割した各階層において、リソースの累計(人員や時間、予算)が一致するようにする必要があります。例えば、レベル1の階層で計算した予算の合計は、レベル2、およびレベル3の階層で計算した予算の合計と一致するようにしましょう。
- 管理可能な単位に分割されたタスク、つまりワークパッケージは、期間内に完了できる適切な作業量を伴っている必要があります。
- プロジェクトの進捗に応じて、柔軟に新しい作業を追加したり、割り当てを変更できるようにします。
- プロジェクトの一部は詳細に分割できたけれど、また別の一部は大まかにしか分割ができなかった、というケースもあるでしょう。重要なのは「実際に作業を進めることができるか」という点であり、WBSは完全に対照である必要はありません。
- 基礎的なWBSはスケジュール管理には適していませんが、タスクの順番で大まかなスケジュールを管理することができます。そのため、プロジェクトの開始前に、順番に齟齬や間違いがないか確認をする必要があります。
WBSのテンプレート
他のプロジェクト管理ツールと同様に、WBSもテンプレートをうまく利用することで、初期の立ち上げや設定を簡素化することができます。チームまたは会社がすでにテンプレートを持っている場合は、他のプロジェクトとの連携や、必要事項の漏れを生じさせないためにも、既存のテンプレートを使うのが賢明でしょう。
そうでない場合は、独自のWBSを作成するか、Smartsheetでもソフトウェア開発や建設プロジェクトで使えるWBSのテンプレートを無料で配布(英語版)しています。
専門家からのアドバイス
単なるTo-Doリストになってしまったのでは、WBSを作成する意味がありません。タスクを管理可能な単位に分割して、達成できたか否かの測定を可能にするためには、どのような点に気を付ければいいのでしょうか? WBSの専門家によるアドバイスをまとめました。
20年以上のプロジェクト管理経験を持ち、Smartsheetのソリューションコンサルタントであるミシェル・ワトキンス(Michelle Watkins)は、WBSの初心者にはいつも「テンプレートから始めましょう」と提案します。「テンプレートには必要な要素が揃っているので、そこから自身のプロジェクトに合わせて調整を加えていくことが重要です。」
Value Generation Partners社の共同設立者であり、Project Management for Success Handbookの著者でもあるロッド・バクスター(Rod Baxter)氏は「ただただ実践あるのみ」と言います。バクスター氏によると、優れたプロジェクトマネージャーにはリスク管理とコミュニケーション管理の能力、そしてWBSに関するトレーニングとスキルが必要です。さらに、仕事に慣れてきたら初心者や新人の指導を通じて、自信を獲得することも大切だと勧めています。
土木工学の技師であり、プロジェクトマネジメントについての4冊の書籍の著者でもあるラリー・ベネット博士(Dr. Larry Bennett)は、WBSを習得するための鍵は「実践あるのみ」と繰り返し発言しています。
「新しい試みを行うとき、すぐに自信を持って上手くできるような魔法の方法はありません。大切なのは、WBSをうまく活用している人の近くで観察し、質問しながら、自分でもやってみることです。必要に応じて意見を求めることも有効です。フィードバックから学んだことを生かして、もう一度チャレンジしてみます。このようにして、少しずつ自信を付けていくことができます。」
ベネット博士は、WBSを学習する最良の方法は「どこで」「どのように」使用されることで良い結果を生み出すことができるか、その経験則を見つけることにあると言います。このタイプの情報は、学術的な書籍やGoogleの検索結果にはありません。
「もし専門家の会議に出席する機会があったら、机上の空論ではなく自分の経験について話している「実世界」の実践者を探すのが賢明です。
まとめ:シンプルで奥が深いツール、WBS
「曖昧で複雑なタスクを階層化・分割し、管理可能な作業に落とし込む」というWBSのコンセプトは汎用性があり、様々なプロジェクトで活用することができます。一方で、ガントチャートのように期限やスケジュールを視覚的に管理するには適していないため、建設事業やイベント、アジャイルなソフトウェアの開発に使う際には注意が必要です。
プロジェクト管理の本来の定義を確認したり、どのような管理方法がふさわしいのか、もう一度立ち戻って理解したいという方は、プロジェクトマネジメントの全体の概要をこちらのページにまとめています。是非ご覧ください。
また、WBSはシンプルに見えて、奥が深いツールでもあります。ガントチャートのように様々な要素や項目を埋めていく必要が少ない分、使用する人のスキルや経験に頼るツールとも言えるでしょう。そのため、テンプレートやツールを使うことが有効になります。
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